IT技術関連のこと、読んだ本の紹介、実際に買って使ったオススメのガジェットなどなど、書いていきます。

2018/12/02

今週の読書紹介(2018/11/26~2018/12/02)『人がうごくコンテンツのつくり方』『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』


今週(2018/11/26~2018/12/02)からは次の 2 冊を紹介。


髙瀬敦也『人がうごくコンテンツのつくり方』クロスメディア・パブリッシング、2018. ( amazonで見る )

世の中のものすべてコンテンツ、という考え方は本当にそうだと思っていて、それってそもそもの認識論、言語による分節化、道具的用法というところと軌を一にしているのですよね。段ボールミカン箱は、人によってはミカンを入れる容れ物であるけれど、人によっては勉強机である。とか、人によっては祖先を供養し拝むべき石碑だけれど、人によっては単なる路傍の石にすぎない。とか。そういう。

いかにして、ただのモノを、コンテンツに昇華することができるのか。そのメソッドのいくつかを、先に挙げたような思考を背景にして、テレビ局に在席していた著者が、紹介してくれるという一冊になります。

とりわけ「言い換え/置き換え」というのはかなり応用範囲の広く効くものだろうなと思いました。面白い例がいくつかありましたが、うち一つとしては、グレープフルーツのことを「イエローメガみかん」と言ってしまうと、途端に「何だ何だ?」と食べてみたくなってしまうような。

ビジネス展開/サービス開発をする上では、人を惹きつけるために、やはり「ネーミング」「キャッチコピー」など、ことばに頼らざるを得ません。もちろん、本書内に書かれていたように、それだけでなくて視覚的インパクト(名前は覚えてもらえなくても「あの、赤い金髪のやつが出てるCM」のようにぼんやりと覚えてもらえるための仕掛け)も必要になりますが、その先、定着させるためには、ことばの力が絶大です。そのことを改めて考えさせられました。


星﨑尚彦『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』KADOKAWA、2018. ( amazonで見る )

明日倒産するともわからなかったメガネスーパーを驚異的なまでに V 字回復させた現社長さんによる、立て直しの背景にある考え方紹介、という本です。

とはいえ単なる表層的な経営論が述べられているだけというわけでもなく、具体的なメソッドとしても、以下のようなものが挙げられています。


  • 「何もかもを全て腹落ちさせるまで話し合う」という 10 時間ミーティングを毎週月曜に実施
  • それを全社員が見られるように、中継 & アーカイブ公開
  • 社長自身が現場感覚を得るために、全国の店舗を渡り歩く(電話も自分で取るし、ポスティングも自分でするし)

これだけ見ると、社員愛に溢れ愚直なまでに泥臭いことをやっている昭和風な社長という印象を受けられるかもしれませんが、徹底的に数字を見ながら経営の嗅覚を養うため、そして、社員一人一人に経営者の考えを納得させるためにやっている、ということです。

また、

  • 社員の本音を聞き出すためであれば何でもする
  • 社員に動いてもらうためには「いいからやれ」でなく、腹落ちして自らが動き出すように仕向けていくしかない
ということで、むしろ次世代型経営の一端が垣間見えると思います。ここまで力を尽くしておいて、 V 字回復できたのは自分の力ではなくて、社員全員の力だと言いきれるのが、カッコイイ。

  • 他のメガネ屋と異なる差別化をするために自分達の最大の強味である「アイケア( eye care )」を謳って高品質高価格という路線に切り替えた
というのが、回復においての最大の理由であると考えられますが、これを実現するためにどれだけの現場改革がおこなわれなければならなかったことか。これを 3 ~ 4 年ちょっとでやってしまったのが凄くて、勇気づけられました。

2018/12/01

今週の読書紹介(2018/11/19~2018/11/25)『「3か月」の使い方で人生は変わる』『絶滅危惧職種図鑑 これからなくなる厳選65種』


今週(2018/11/19~2018/11/25)からは次の 2 冊を紹介。公開遅れていて既に先週のものですが……


佐々木大輔『「3か月」の使い方で人生は変わる』日本実業出版社、2018. ( amazonで見る )

freee 代表の佐々木さんの本。特別に何かスゴいものがある! というわけでもなく、基本に忠実なことがただただ書いてあるだけなのですが、その「基本に忠実であり続けること」が何よりやっぱり難しかったりするので、そこに強さがあるのだろうなと思わされました。

やらないことを決める。これなんですよね。アイディアが思い浮かんでもすぐには口に出さないで溜めておく、一方で、まずはアウトプットしてから思考してみる、という使い分け/切り替えも大事ですね。

事務的な仕事は生産的でない分、短期的な快楽がある(成果が見えやすい/仕事をしているような実感がある)から、ついつい手を出して時間を使ってしまいがちだし、いつまで経ってもなくならない、というのも、ほんと、その通りだと思います。課題なんですよねーーーー。


七里信一『絶滅危惧職種図鑑 これからなくなる厳選65種』あさ出版、2018. ( amazonで見る )

厳選しても 65 種類も出てくるくらいに、今後の技術革新や生活スタイルなどの変化によって、消えゆくお仕事がたくさんあるというご紹介。それぞれの職業につき一つ一つイラストつきです。

なくなるまでの期間については、今後数年内には、というものもあれば、まだ五十年以上は残るだろうな、というのもあります。なくなるであろう理由については、読んでいけば「そりゃそうだよね」と思えるものがほとんどですが、ソラでこれらを全部挙げていけと言われたらなかなかできることではないので、追認のためにも一通り目を通しておく価値があると感じられました。

著者プロフィールがモリモリすぎるのはちょっとご愛嬌というか……、読むとゲンナリする人は一定数以上いそうなので、あえてわざわざ読まない方が良いかもしれません。こう書くと、逆に読んでみたくなってくるかもしれませんが。

2018/11/18

今週の読書紹介(2018/11/12~2018/11/18)『ひとり情シス』


今週(2018/11/12~2018/11/18)からは次の 1 冊を紹介。今週も小説ばかり読んでました。


清水博『ひとり情シス』東洋経済新報社、2018. ( amazonで見る )

DELL の方がその肩書きを前面に出して著しているものなので、どうしても最後の最後で「ウチが大変なところサポートしますよ」という営業色を見せてしまっています。それをどう思うかは読み手次第ですね。

また、表紙の漫画チックなテイストや、帯についている「深刻化wwww」といったノリは、本文内には全くなく、変なミスマッチになってしまっているのがよくわかりません。一体誰に読んで欲しくてこの外面にしたのだろうか……。

本文の内容自体は、少しでも「ひとり情シス」状態を体験したことのある人であれば、「ああ、わかるわかる、あるある」と頷ける箇所が数多くあります。そして、そんな「ひとり情シス」状態を打開する策について提案が書かれているとかいうわけではなく、「ひとり情シス」というのもそんなに悪いばっかりではないよ、と肯定的なことが応援めいて書かれているのが特徴的です。

「ひとり情シス」状態にどっぷり浸かってしまっていて、もう自分はこの道で生きていくんだと覚悟を決めて楽しんでいる方は、「ああ、あるあるw」と笑えるばかりなので、どちらかというと、「ひとり情シス」状態で精神的に病んできていたり、いきなり「ひとり情シス」状態に突っ込まれて途方に暮れていたりする方に読んで欲しいものと思いました。

2018/11/11

今週の読書紹介(2018/11/05~2018/11/11)『VRは脳をどう変えるか?』『感情とはそもそも何なのか』


今週(2018/11/05~2018/11/11)からは次の 2 冊を紹介。期せずして、内容のリンクするような 2 冊となりました。


ジェレミー・ベイレンソン、倉田幸信訳『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』文藝春秋、2018. ( amazonで見る )

これまた日本語訳タイトルが的確かどうかという点では首を傾げてしまうのですが、内容の素晴らしさは折紙付です。原題は EXPERIENCE ON DEMAND: WHAT VIRTUAL REALITY IS, HOW IT WORKS, AND WHAT IT CAN DO ということで、直訳するなら、『オンデマンドな体験:VRとは何か、どのように作用するか、そして何ができるか』という感じでしょうか、こちらの方が内容に相応しいです。

本書についても、目次が内容紹介に適切なので挙げておきます。
  • なぜフェイスブックは VR に賭けたのか?
  • 一流はバーチャル空間で練習する
  • その没入感は脳を変える
  • 人類は初めて新たな身体を手に入れる
  • 消費活動の中心は仮想世界へ
  • 二〇〇〇人の PTSD 患者を救った VR ソフト
  • 医療の現場が注目する ”痛みからの解放”
  • アバターは人間関係をいかに変えるか?
  • 映画とゲームを融合した新世代のエンタテイメント
  • バーチャル教室で子供は学ぶ
  • 優れた VR コンテンツの三条件
まずは、既に VR というものが、大掛かりな装置の元では大きく実績をあげているというところから触れられています。アメフトのイメージトレーニングに使われることで採り入れたチームにおいて勝率の劇的な向上が見られたこと。医療現場で PTSD やペインケアとして効果を発揮していることなど。そこでの測定により、 VR での経験は、「VR での経験・体験」ではなく、「実際の経験・体験」と全く同じになっているということが語られていきます。つまりは、「理性では VR なんだと分かっている」ということが、「何も分かっていない」ようになるくらいにまで、既に没入感の高さを実現できているということです。

ここにおいて、 VR は医療や教育のツールとして大きく役立つものとして捉えられるようになりました。もちろん、映画やゲームなどのエンタテインメント、そして、インターネットもそれによって流行ったようにアダルトも、コンテンツとして普及していかなくては、家庭用に一般には広まらないでしょうと予測されています。ただし、二次元平面に向かっていた時代のエンタテインメントのように、ゾンビに襲われたり人を撃ち殺したりといったものは、作られもしないし遊ばれもしないだろうと著者は言います。先に述べた通り、「実際の経験・体験」と同じなので、心的影響が計り知れないものになるからです。軍事的用途としては、残念ながら使われてしまうでしょうが……

VR コンテンツは、非常に安価にコピーできる「オンデマンド経験」になり得ます。これまで、「一対一」だからこその伝播の高さとコストの高さとがあった教授法も、疑似的な「一対一」を作り出すことで、空間的にも時間的にも離れている「一対百」で同じように活用されることでしょう。 VR 空間においては、「本当に相手が人」であろうとなかろうと、「それらしく振る舞うアバター相手」であれば、それは「対人体験」になるといいます。こと VR 空間ではもはや本当に「人でなければ」という「人の居場所」はなく、人の役割は VR コンテンツ(空間)を作ることそれ自体にあるといえるでしょう。

そのあたりの話は、大変興味深く面白く読めていましたが、中でも目から鱗だったのは、「ビデオ通話」が今後は廃れていき、「アバター通話」になるだろうという予測です。相互のアバター情報とベースとなるデータモデリングさえあれば、後はテキストデータのやり取りだけで、お互いの画面上に表示されるアバターが変化していく。こうすれば、インターネットのトラフィックが激減するから、そういうところでも VR 技術は世の役に立つ、というのは、なるほどと膝を打ちました。

きっと 100 人が読めば 100 人が全員面白いと受け取る箇所が違ってくるはずです(いずれの本であろうともそうなのですが、特に) そして紹介の仕方も変わってくるでしょう。何度か読み返したくなる名著と、今この瞬間は思いますが、もしかしたら 10 年後くらいには、「今更読む必要がないくらい常識的な本」などと言われるようになっているのかもしれません。


乾敏郎『感情とはそもそも何なのか 現代科学で読み解く感情のしくみと障害』ミネルヴァ書房、2018. ( amazonで見る )

本当に期せずして、上記の VR 本を読んだ後でこちらを手に取りました。「感情が動く」というのがどのような科学的作用の結果によるものなのか、ということが余すことなく書かれていて、これを読めば、ますます「そりゃ、 VR で感情が動くのは当然だよな」と納得できます。

本書には、巻末あたりに point がまとまっていますので、その中からいくつかを引用しておきます。

  • 感情は、 2 次元で表現できる。
  • 情動は生理的反応、感情はそれに伴う主観的意識体験。
  • 前島によって身体をもつ自己を意識することができる。
  • 眼窩前頭皮質で価値付けられた対象の認知が可能となる。
  • 大脳基底核ループにより、報酬予測誤差や魅力度などの評価を行い、文脈に応じた適切な行動を決定し実行することができる。
  • 私たちが見ている世界は、脳が網膜像から推論した結果である。
  • 網膜像からの外界の構造や状態の推定は、予測誤差最小化で実現できる。
  • 運動するときは、自動的にその結果を予測している。
  • 情動信号の予測信号が感情を決める重要な要因となる。
  • 一時的自己は、自己主体感、自己所有感、自己存在感から構成される。
  • 注意を向けることは、感覚信号や内受容信号の精度を高めることである。
  • INF-α により側坐核のドーパミン低下と活動低下がみられる。これは、快感消失、抑うつ、疲労と相関する。
  • 島において疲労を感じ、前帯状皮質でモチベーションの低下が起こる。
  • うつ病の本質は「炎症」である。
  • うつ病は前帯状皮質膝下部( sgACC )の活動がマーカーとなる。
  • ドーパミン反応は、線条体と腹内側前頭前野ではモチベーションを上げ、島ではモチベーションを下げる。
  • 前島は内受容信号と予測信号の比較器である。
  • オキシトシンによる抑制によって、接近行動が促進される。
  • 不確実さ・共変動バイアス・不耐性は、島と前帯状皮質の活動と関係している。
  • 知覚と認知の境界はない。すべてが切れ目なく互いに相互作用している。
  • 運動野から筋肉に伝えられるのは運動指令信号ではなく、目標となる姿勢の自己受容感覚である。
  • 脳内では、知覚と運動は区別できない。
まとめると、色々なことを決定する中枢となるものは、やはり脳だと言えますが、その脳に影響を与える変数を担うものが全身にあれこれ多すぎて、一つ一つは単一の式で表現され説明されるものであったとしても、総体で見ると複雑系なのではないか……と思いました。

全く知らなかったこととして、「自由エネルギー原理」というのが一点あるのでご紹介。これは、「フリストンが2005年から2010年の間に脳の情報処理の統一理論として構築したもの」 ( 本書 p.124 ) で、ヘルムホルツの「自由エネルギー」から着想を得たとのこと。「各階層から下の階層の状態の予測信号が出力され、上の階層から当該の階層に予測信号が入力される。そして各階層で予測誤差が計算される。自由エネルギーを最小化することによって、外界の階層的な属性が推論される。このように階層的な構造で推論されるので、低次の推論も高次の認知やメタ認知情報の影響を受ける。低次レベルの内受容感覚の予測も高次のレベルにおける内受容感覚の変化の原因の認知の影響を受けるため、感情の2要因論とよく対応している。一方、自由エネルギー原理によれば、予測信号(信念)を書き換えることによってエネルギーの最小化ができるだけでなく、注意や行動を通して入力自体を変化させることによっても最小化が可能である。前者が知覚の無意識的推論であり、後者が能動的推論である。」 ( 同 pp.150-151 )

とにもかくにも、「感情とは何か」という疑問に対する教科書的一冊として、素晴らしく優れたもので、一読をオススメします。

2018/11/04

今週の読書紹介(2018/10/29~2018/11/04)『ファミコンに育てられた男』


今週(2018/10/29~2018/11/04)からは次の 1 冊を紹介。今週は小説ばかり読んでました。



フジタ『ファミコンに育てられた男』双葉社、2018. ( amazonで見る )

「ファミコンに育てられた男」というタイトルに一切の嘘偽り誇張なし。このフジタという芸人さんのことは全く知らずに本書を手に取ったのですが、書面で分かる限りでファミコンの各ゲームのスキルが凄まじく目を剥くほどで、そしてそれ以上にそのスキルを身につけることになった小学生時代の生存環境が壮絶。何がどう凄絶なのかは、ぜひ手に取って確認してみてください。

本書内ではファミコンゲームが 50 本以上が(内 1 本は、 FF4 で、スーパーファミコンではありますが)取り上げられているのですが、著者のゲームレビュー群というわけではなく、それぞれのゲームにまつわる著者の想い出が語られる、という形式です。たまに会いに来る年の離れた兄にあれやこれやで騙されて大人の汚さを知ったり、ゲームセンターで脱衣麻雀の腕を見せつけヒーローになったり、対戦ゲームでハメ技を親友相手に繰り出してそれ以来絶交となってしまったり……、人生の酸いも甘いもたっぷりと感じられます。

ファミコン全盛期に、実際に手に取って遊ぶ機会のあった世代は、「あー、わかるわかる」と頷けることもたくさんあるでしょう。ノスタルジーを感じることもあるかもしれません。それよりもっと上の/若い世代の方でも、単に読み物として興味深く読めるはずです。

2018/10/28

今週の読書紹介(2018/10/22~2018/10/28)『NETFLIXの最強人事戦略』『残業の9割はいらない』『スーパービジュアル再現 羽毛恐竜と巨大昆虫』『日本人の9割がやっている残念な習慣』『貨幣が語るローマ帝国史』


今週(2018/10/22~2018/10/28)からは次の 5 冊を紹介。


パティ・マッコード、櫻井祐子訳『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』光文社、2018. ( amazonで見る )

最初に注意すべきはあくまで著者が 2012 年までの 14 年間を最高人事責任者として務めてきた元社員であって、現在はコンサルタントである、という点ですね。現役の NETFLIX 社員ではないので、今現在も同じ状況かどうかは定かではない、けれども恐らく現在もこれに近い企業文化であるのだろう、くらいの見方で読むべきです。

著者自身語っている通り、激しい変化についていくためには、どんな慣習や前例があったとしても、よりよい方法を模索して変わり続けていくべき、というわけですから、著者の在籍時代から何も変わっていないと考えるのは、この本を読んで何も受け取れていないということになってしまいます。

本書の要点は、目次を挙げればそれがそのままです。
  • 成功に貢献することが最大のモチベーション──従業員を大人として扱う
  • 従業員一人ひとりが事業を理解する──課題が何であるかをつねに伝える
  • 人はうそやごまかしを嫌う──徹底的に正直になる
  • 議論を活発にする──意見を育み、事実に基づいて議論を行う
  • 未来の理想の会社を今からつくり始める──徹底して未来に目を向ける
  • どの仕事にも優秀な人材を配置する──すべての職務に適材を
  • 会社にもたらす価値をもとに報酬を決める──報酬は主観的判断である
  • 円満な解雇の方法──必要な人事変更は迅速に──その会社で働いていたことを誇れるような組織にしよう
要点はたったこれだけなのですが、これを訴えるに足るバックグラウンドを、著者は熱い気持ちとともに語り続けます。はい、語りです。本書の内容的な要点は上記の通り、しかし真髄は、 NETFLIX をここまでの企業に成長させるに至った大きな立役者である著者の、全経営者に対する熱い想いの語りだと感じられました。

きっと、本書を読む人は何らか経営的/人事的興味関心を持っていることでしょう。実際に経営/人事の一役を担っている立場だったりするかもしれません。本書を読んで、 NETFLIX が採り入れている価値観と合う部分を見つけると安心するでしょうし、合わない部分を見つけると国や組織的規模感の違いから来るものだからウチでは難しいと思ったりもすることでしょう。まさに私。

ただ、本書の中から合う部分だけを見つけて安心するのをやめて、合わないと感じた部分を深掘りして、どうして合わないのか、ということの言語化を徹底的にしてみる方が生産的でしょうし、それこそ著者の訴えたかったことを実践してみたと言えそうです。少なくとも、私自身、抱えているチームについて向き合うべき姿勢を改めなおさないとならないと思いました。自由と責任ですね。



本間浩輔『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』光文社新書、2018. ( amazonで見る )

後書きでこの書名にした理由がつらつら書かれているのですが、それを読んだ上でやっぱりこのタイトルはよろしくないなあと思いました。代替案があるわけではないのですが、著者が一番主張したいのは結局「変化してゆく時代に応じて30年後を見据えた働き方をしよう」なので、それがもう少し伝わるようにしたら良かったのでは……。まあ実際、残業の9割は要らないとは思うわけですが。

NETFLIX 本を読んだ後では、かなりインパクトに欠けるのは確かですが、あちらが極北へと行ってしまっているので、こちらはもう少し現実的なところに寄り添っているというか、現実的過ぎて今の日本の惨状を嘆きたくもなってくるというか……。

どちらにも同じく言えることは、社員を大人扱いして、一対一でしっかり対話することが肝要、という点。ただし、 こちらは一般的な企業と同様に社内で人を育てることを是としているのに対して、 NETFLIX は社内で人を育てることはまず考えておらず、スキルの合う人を連れてくれば良いというのが基本方針なので、日本人の肌にはこちらの本の方が読んでいて合うような気はしました。

「三〇年後、あなたは何歳になっていますか? そのとき、どんな仕事をしていますか? 仕事をしているとしたら、どんな働き方をしていると思いますか?」 ( 本書 p.5 )

ということを考えるきっかけのための一冊になるのは、間違いないです。本書の中で語られているそれ以外のことは、上記を考えるためのヒントになりうるもの、という感じがしました。



マリー・ステルブ/ジャン=セバスティアン・ステイエ/ベルトラン・ロワイエ/エマ・ボー、福井県立大学恐竜学研究所監修『スーパービジュアル再現 羽毛恐竜と巨大昆虫 7つの謎で解き明かす太古の世界』日経ナショナルジオグラフィック社、2018. ( amazonで見る )

どうして恐竜とはかくもこう心をくすぐるものなのか。

恐竜は好きなので割と展覧会などには足を運んでる方なのですが、それでも自分の認識がまだ 10 年くらい前の恐竜研究感で止まってることに気づかされました。最近、中国でますます化石発掘が進んでいるのですね。

本書の構成としては、まず、恐竜時代に至るまでの爬虫類・両生類・巨大節足動物などを取り上げ、ペルム紀末期の大量絶滅を経てからいかにして恐竜が出現し始めるのか、というところから語り始められます。恐竜が現れてからは、その時代の哺乳類の紹介、そして、羽毛を持つ恐竜、加えて云うなら羽毛の生えたティラノサウルス類という、 19 世紀以来の恐竜観からは真っ向反対するものが取り上げられます。

話題は広がり、さらには、メラノソームという色素を保管した「袋」が化石中から発見されたことにより、完全に外見の色が確定された初めての恐竜であるアンキオルニス、そして未だ不確定ながら黒色が有力候補とされることになった始祖鳥へ。

またそれ以外にも、「未発見の恐竜はどれくらいいるのか?」「鳥類はどうして生き残れたのか?」という、言われてみれば気になる! という疑問も取り上げ答えくれています。

本書はフルカラーの大判書籍で、あまり文字読むのが得意でないなあ……、という人であっても、パラパラとページを捲るだけで、うおおー、とその手が止まらなくなること請け合いです。なお効果効用には個人差があります。


ホームライフ取材班編『日本人の9割がやっている残念な習慣』青春新書、2018. ( amazonで見る )

日本人のかなりの数の人がやっているであろう「損する! 危ない! 効果ナシ! の 130 項目」を厳選して、「違う、そうじゃない。こうやるのだ」を紹介してくれています。

色々な本を読んでいる手前、そこそこ雑学的にも知っていることがあったのですが、それでもやっぱりこれだけの数を前にすると、「何てこった、知らなかった……」というものも、結構出てきます。それらを例に挙げると……
  • 網戸は、右側に固定しておくべし。左側だと、窓の開閉時に隙間が出きて虫が侵入してきやすい
  • 冷凍食パンは解凍せずにそのまま焼くべし。外がカリカリ中がフワフワになる
  • 紙パック飲料で注ぎ口がついているものは、注ぎ口を下にせずに上にした状態で注ぐべし。容器内と空気の入れ替えがスムーズになる
中でも一番驚いたのが、
  • 手持ち花火の先端の紙びらは、ただの火薬蓋の先端で、導火線ではないので、ここに火を点けても無駄
というものでした。ずっと導火線としか思ってませんでした。あれはもはや導火線にしか見えないのでどう考えてもUIが悪い(責任転嫁)

本書を読んでみると目から鱗の連続になるかもしれません。



比佐篤『貨幣が語るローマ帝国史 権力と図像の千年』中公新書、2018. ( amazonで見る )

ローマ帝国の貨幣史、ではなくて、あくまでタイトル通りに貨幣-図像を通じて見るローマ史です。帝国史というよりは共和政ローマからしっかり見ているので、より正確には「貨幣が語るローマ史」でしょう。

ともすればニッチな内容で一部の読者層向けという感もありそうなテーマながら、一般向けにもたいへん読みやすく興味をそそられる良い構成になっていつつ、さらにはこれをきっかけにもっと深く研究に食指を伸ばしたくなるようなものに仕上がっていて、これは素晴らしいと唸らされます。

貨幣に描かれるものが、自然に対する畏敬から、先祖、そして現存する人物へと変遷してゆき、それはまさしく神格化というものに一致しうると言えるのではないかと。そして特定の人物が貨幣に具体的人物を描けと指示することについて、極言すると、貨幣に託すのは「承認欲求」ということになるでしょうか。承認してもらいたいものは、自己自身の地位の保全であったり、次の継承者に向けての地位の保全であったり、単なる自己承認の精神的充足であったり。最後のケースは割と稀で、もっと切実な理由が多そうです。

本書の射程は、ローマ史に留まらず、キリスト教がいかにしてローマ的精神(もっと広く言えば地中海世界的精神風土)の上に寄って成り立っていったのか、そしてそれを忘れ去らせようとしていったのか、ということにまで及びます。史料から歴史を語るとはこういうことだ、という良い例を示す名著です。

2018/10/21

今週の読書紹介(2018/10/15~2018/10/21)『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』『トリフィド時代』『実務でつかむ! ティール組織』『訪問看護事業 成功の条件』


かなり秋めいてきた今週(2018/10/15~2018/10/21)からは次の 4 冊を紹介。


川添愛『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』東京書籍、2018. ( amazonで見る )

「数字」という概念を認識せずにエジプト数字のみしか知らない存在に対して、「アラビア数字」の誕生から、二進法、数字による情報表現、電気信号への変換、プログラミングという概念……というように、根本のところから歴史的流れを踏まえてコンピュータが作られるまでが語られていく一冊。

構成組みが非常に秀逸で、東京書籍から出されているだけあって小学校の教科書に採用してくれないかなと思わされるようなものになっています。イラストによる分かりやすさ・親しみやすさもまた優れもの。

基本原理を知らなくったって、使えればいいじゃん、という考えもあるにはあります。今後、AI の伸展によってますますそういう風潮にもなるでしょう。本書の最後の方にも、そういった流れに対する警鐘が鳴らされていましたので、以下に引用します。

「僕らは、先人たちの研究の積み重ねによって何かができるようになると、「できること」のほうが当たり前になってしまって、それを生み出した「研究の積み重ね」のことを忘れてしまいがちだ。それはそれで仕方がないことかもしれないけれど、それが「研究なんて、全然大切じゃない」とか、「もう勉強は要らない」っていう考え方につながってしまうのは、やっぱりおかしなことだよね。
 それに、「今は当たり前のこと」が、本当は「全然当たり前ではない」と気づくことに、毎日を楽しく豊かに生きるヒントがあるような気もするしね。」 ( 本書 p.169 )


ジョン・ウィンダム『トリフィド時代 食人植物の恐怖』創元SF文庫、2018. ( amazonで見る )

小説は読んでいてもあまりこの読書紹介で取り上げることをしてきていなかったのですが、これは紹介しておこうと思って筆を執りました。

ここ数年、古典の新訳が結構出ていて嬉しく、本作もそのうちの一冊で、パニックモノ、破滅モノの元祖名作ともいえるもの。読む人は全員こう思うことでしょう、何て淡々と進むのか、と。これぞ英国SF。アメリカとは違いますね。裏表紙に書かれている紹介文の煽り感は、あくまで売るためのもので、中の文章の温度感とは随分違います。そそられる良い紹介文であることには間違いありませんが。

「その夜、地球が緑色の大流星群のなかを通過し、だれもが世紀の景観を見上げた。ところが翌朝、流星を見た者は全員が視力を失ってしまう。……(中略)……折も折、植物油採取のために栽培されていたトリフィドという三本足の動く植物が野放しとなり、人間を襲いはじめた! ……(後略)」 ( 本書 裏表紙 )

小説の紹介/感想というのは難しく、とかく、ネタバレになるラインというものを気にしなくてはなりません。古典といえど、最後の最後のオチを匂わすようなことは書けない。ネタバレしますと宣言する書評では別ですが、ここではネタバレしません。

では何を紹介するのか? それはやはり、本作の読後にこの文章を読んだとき、初めて意味が分かるというようなことを、でしょう。すなわち、このタイトル。 THE DAY OF THE TRIFFIDS というフレーズの真意。これが、「ぬぐい消してしまう日」 ( 同 p.402 ) なのか、それともむしろその逆なのか。これについての妄想を膨らませることができるようになるためだけにでも、この本を手に取る価値がある、とご紹介いたしましょう。


吉原史郎『実務でつかむ! ティール組織』大和出版、2018. ( amazonで見る )

ティール組織、ホラクラシー経営について書かれた本なのですが、タイトルにある「実務でつかむ」というには実務感が薄く、全体的に、概念や空論がふわふわしているような印象に終始してしまいました。

それこそ、ティール組織というのをひと言であらわしている「社長や上司が業務を管理するために介入をしなくても、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことができるような独自の仕組みや工夫に溢れている組織」 ( 本書 p.14 ) という冒頭の説明によって「つかむ」だけで十分と思えてきてしまいます。

そもそも最初の章でティール組織を説明するにあたって、いわゆる「意識高い系」的な人口に膾炙していないカタカナ語の氾濫が目立ってよく分からないことになっています。提唱者のフレデリック・ラルーが話している語の翻訳を宛てているだけなのかもしれませんが、それでも伝わる日本語に置き換えないと、読者が大切にされていないということになってしまうでしょう。

また、ティール組織は良い、ホラクラシー経営は良い、という絶賛の意思はヒシヒシと伝わってくるのですが、例えば経営破綻になって借金背負って倒産したら誰が責任取るの? とかそのあたりの切実ギリギリのところについて何も語られていないというのが、やや胡散臭さの一因となってしまっています。

普段、オススメの本以外は紹介しないのですが、このティール組織という概念自体は重要なものだと思いますので取り上げています。一度、ティール組織で自身が働いてみないと腑に落ちてこないのかな……


浜中俊哉『訪問看護事業 成功の条件』経営者新書、2018. ( amazonで見る )

訪問看護事業はこの先ますます伸び続けていくだろうということで多くの新会社ができていはするものの、今のところ、看護師マネジメントが甘いせいで潰れていく会社が多いようです。

それというのも、病院勤務上がりの人が経営者になるケースが多く、その場合は得てして一般的な株式会社の「サービス精神」や「コスト感覚」が薄いのが弱味になっているとのこと。著者がたった数年で売上規模を 30 倍にも伸ばしたのは、その基本ともいえるところを、著者自身が一ユーザ時代に辛酸を舐めた経験をもとに、徹底的に突き詰めた結果として必然だったのかもしれません。

訪問看護事業が今後必要になるということの背景知識を得られるのはもちろんのことながら、未経験の領域において新しく会社を立ち上げて成功させていくことの裏に、どんな考えや苦労があるのかということも改めて学べる良著でした。また、合間合間に挟まれる、利用者との交流エピソード(最終的には必ずお亡くなりになる……)は、グッと来るとともに、心胆の強くない自分はこの領野には踏み込みづらいなと思わされました。