今週の読書紹介(2018/10/22~2018/10/28)『NETFLIXの最強人事戦略』『残業の9割はいらない』『スーパービジュアル再現 羽毛恐竜と巨大昆虫』『日本人の9割がやっている残念な習慣』『貨幣が語るローマ帝国史』
今週(2018/10/22~2018/10/28)からは次の 5 冊を紹介。
著者自身語っている通り、激しい変化についていくためには、どんな慣習や前例があったとしても、よりよい方法を模索して変わり続けていくべき、というわけですから、著者の在籍時代から何も変わっていないと考えるのは、この本を読んで何も受け取れていないということになってしまいます。
本書の要点は、目次を挙げればそれがそのままです。
きっと、本書を読む人は何らか経営的/人事的興味関心を持っていることでしょう。実際に経営/人事の一役を担っている立場だったりするかもしれません。本書を読んで、 NETFLIX が採り入れている価値観と合う部分を見つけると安心するでしょうし、合わない部分を見つけると国や組織的規模感の違いから来るものだからウチでは難しいと思ったりもすることでしょう。まさに私。
ただ、本書の中から合う部分だけを見つけて安心するのをやめて、合わないと感じた部分を深掘りして、どうして合わないのか、ということの言語化を徹底的にしてみる方が生産的でしょうし、それこそ著者の訴えたかったことを実践してみたと言えそうです。少なくとも、私自身、抱えているチームについて向き合うべき姿勢を改めなおさないとならないと思いました。自由と責任ですね。
恐竜は好きなので割と展覧会などには足を運んでる方なのですが、それでも自分の認識がまだ 10 年くらい前の恐竜研究感で止まってることに気づかされました。最近、中国でますます化石発掘が進んでいるのですね。
本書の構成としては、まず、恐竜時代に至るまでの爬虫類・両生類・巨大節足動物などを取り上げ、ペルム紀末期の大量絶滅を経てからいかにして恐竜が出現し始めるのか、というところから語り始められます。恐竜が現れてからは、その時代の哺乳類の紹介、そして、羽毛を持つ恐竜、加えて云うなら羽毛の生えたティラノサウルス類という、 19 世紀以来の恐竜観からは真っ向反対するものが取り上げられます。
話題は広がり、さらには、メラノソームという色素を保管した「袋」が化石中から発見されたことにより、完全に外見の色が確定された初めての恐竜であるアンキオルニス、そして未だ不確定ながら黒色が有力候補とされることになった始祖鳥へ。
またそれ以外にも、「未発見の恐竜はどれくらいいるのか?」「鳥類はどうして生き残れたのか?」という、言われてみれば気になる! という疑問も取り上げ答えくれています。
本書はフルカラーの大判書籍で、あまり文字読むのが得意でないなあ……、という人であっても、パラパラとページを捲るだけで、うおおー、とその手が止まらなくなること請け合いです。なお効果効用には個人差があります。
色々な本を読んでいる手前、そこそこ雑学的にも知っていることがあったのですが、それでもやっぱりこれだけの数を前にすると、「何てこった、知らなかった……」というものも、結構出てきます。それらを例に挙げると……
本書を読んでみると目から鱗の連続になるかもしれません。
ともすればニッチな内容で一部の読者層向けという感もありそうなテーマながら、一般向けにもたいへん読みやすく興味をそそられる良い構成になっていつつ、さらにはこれをきっかけにもっと深く研究に食指を伸ばしたくなるようなものに仕上がっていて、これは素晴らしいと唸らされます。
貨幣に描かれるものが、自然に対する畏敬から、先祖、そして現存する人物へと変遷してゆき、それはまさしく神格化というものに一致しうると言えるのではないかと。そして特定の人物が貨幣に具体的人物を描けと指示することについて、極言すると、貨幣に託すのは「承認欲求」ということになるでしょうか。承認してもらいたいものは、自己自身の地位の保全であったり、次の継承者に向けての地位の保全であったり、単なる自己承認の精神的充足であったり。最後のケースは割と稀で、もっと切実な理由が多そうです。
本書の射程は、ローマ史に留まらず、キリスト教がいかにしてローマ的精神(もっと広く言えば地中海世界的精神風土)の上に寄って成り立っていったのか、そしてそれを忘れ去らせようとしていったのか、ということにまで及びます。史料から歴史を語るとはこういうことだ、という良い例を示す名著です。
パティ・マッコード、櫻井祐子訳『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』光文社、2018. ( amazonで見る )
最初に注意すべきはあくまで著者が 2012 年までの 14 年間を最高人事責任者として務めてきた元社員であって、現在はコンサルタントである、という点ですね。現役の NETFLIX 社員ではないので、今現在も同じ状況かどうかは定かではない、けれども恐らく現在もこれに近い企業文化であるのだろう、くらいの見方で読むべきです。著者自身語っている通り、激しい変化についていくためには、どんな慣習や前例があったとしても、よりよい方法を模索して変わり続けていくべき、というわけですから、著者の在籍時代から何も変わっていないと考えるのは、この本を読んで何も受け取れていないということになってしまいます。
本書の要点は、目次を挙げればそれがそのままです。
- 成功に貢献することが最大のモチベーション──従業員を大人として扱う
- 従業員一人ひとりが事業を理解する──課題が何であるかをつねに伝える
- 人はうそやごまかしを嫌う──徹底的に正直になる
- 議論を活発にする──意見を育み、事実に基づいて議論を行う
- 未来の理想の会社を今からつくり始める──徹底して未来に目を向ける
- どの仕事にも優秀な人材を配置する──すべての職務に適材を
- 会社にもたらす価値をもとに報酬を決める──報酬は主観的判断である
- 円満な解雇の方法──必要な人事変更は迅速に──その会社で働いていたことを誇れるような組織にしよう
きっと、本書を読む人は何らか経営的/人事的興味関心を持っていることでしょう。実際に経営/人事の一役を担っている立場だったりするかもしれません。本書を読んで、 NETFLIX が採り入れている価値観と合う部分を見つけると安心するでしょうし、合わない部分を見つけると国や組織的規模感の違いから来るものだからウチでは難しいと思ったりもすることでしょう。まさに私。
ただ、本書の中から合う部分だけを見つけて安心するのをやめて、合わないと感じた部分を深掘りして、どうして合わないのか、ということの言語化を徹底的にしてみる方が生産的でしょうし、それこそ著者の訴えたかったことを実践してみたと言えそうです。少なくとも、私自身、抱えているチームについて向き合うべき姿勢を改めなおさないとならないと思いました。自由と責任ですね。
本間浩輔『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』光文社新書、2018. ( amazonで見る )
後書きでこの書名にした理由がつらつら書かれているのですが、それを読んだ上でやっぱりこのタイトルはよろしくないなあと思いました。代替案があるわけではないのですが、著者が一番主張したいのは結局「変化してゆく時代に応じて30年後を見据えた働き方をしよう」なので、それがもう少し伝わるようにしたら良かったのでは……。まあ実際、残業の9割は要らないとは思うわけですが。
NETFLIX 本を読んだ後では、かなりインパクトに欠けるのは確かですが、あちらが極北へと行ってしまっているので、こちらはもう少し現実的なところに寄り添っているというか、現実的過ぎて今の日本の惨状を嘆きたくもなってくるというか……。
どちらにも同じく言えることは、社員を大人扱いして、一対一でしっかり対話することが肝要、という点。ただし、 こちらは一般的な企業と同様に社内で人を育てることを是としているのに対して、 NETFLIX は社内で人を育てることはまず考えておらず、スキルの合う人を連れてくれば良いというのが基本方針なので、日本人の肌にはこちらの本の方が読んでいて合うような気はしました。
「三〇年後、あなたは何歳になっていますか? そのとき、どんな仕事をしていますか? 仕事をしているとしたら、どんな働き方をしていると思いますか?」 ( 本書 p.5 )
ということを考えるきっかけのための一冊になるのは、間違いないです。本書の中で語られているそれ以外のことは、上記を考えるためのヒントになりうるもの、という感じがしました。
マリー・ステルブ/ジャン=セバスティアン・ステイエ/ベルトラン・ロワイエ/エマ・ボー、福井県立大学恐竜学研究所監修『スーパービジュアル再現 羽毛恐竜と巨大昆虫 7つの謎で解き明かす太古の世界』日経ナショナルジオグラフィック社、2018. ( amazonで見る )
どうして恐竜とはかくもこう心をくすぐるものなのか。恐竜は好きなので割と展覧会などには足を運んでる方なのですが、それでも自分の認識がまだ 10 年くらい前の恐竜研究感で止まってることに気づかされました。最近、中国でますます化石発掘が進んでいるのですね。
本書の構成としては、まず、恐竜時代に至るまでの爬虫類・両生類・巨大節足動物などを取り上げ、ペルム紀末期の大量絶滅を経てからいかにして恐竜が出現し始めるのか、というところから語り始められます。恐竜が現れてからは、その時代の哺乳類の紹介、そして、羽毛を持つ恐竜、加えて云うなら羽毛の生えたティラノサウルス類という、 19 世紀以来の恐竜観からは真っ向反対するものが取り上げられます。
話題は広がり、さらには、メラノソームという色素を保管した「袋」が化石中から発見されたことにより、完全に外見の色が確定された初めての恐竜であるアンキオルニス、そして未だ不確定ながら黒色が有力候補とされることになった始祖鳥へ。
またそれ以外にも、「未発見の恐竜はどれくらいいるのか?」「鳥類はどうして生き残れたのか?」という、言われてみれば気になる! という疑問も取り上げ答えくれています。
本書はフルカラーの大判書籍で、あまり文字読むのが得意でないなあ……、という人であっても、パラパラとページを捲るだけで、うおおー、とその手が止まらなくなること請け合いです。なお効果効用には個人差があります。
ホームライフ取材班編『日本人の9割がやっている残念な習慣』青春新書、2018. ( amazonで見る )
日本人のかなりの数の人がやっているであろう「損する! 危ない! 効果ナシ! の 130 項目」を厳選して、「違う、そうじゃない。こうやるのだ」を紹介してくれています。色々な本を読んでいる手前、そこそこ雑学的にも知っていることがあったのですが、それでもやっぱりこれだけの数を前にすると、「何てこった、知らなかった……」というものも、結構出てきます。それらを例に挙げると……
- 網戸は、右側に固定しておくべし。左側だと、窓の開閉時に隙間が出きて虫が侵入してきやすい
- 冷凍食パンは解凍せずにそのまま焼くべし。外がカリカリ中がフワフワになる
- 紙パック飲料で注ぎ口がついているものは、注ぎ口を下にせずに上にした状態で注ぐべし。容器内と空気の入れ替えがスムーズになる
- 手持ち花火の先端の紙びらは、ただの火薬蓋の先端で、導火線ではないので、ここに火を点けても無駄
本書を読んでみると目から鱗の連続になるかもしれません。
比佐篤『貨幣が語るローマ帝国史 権力と図像の千年』中公新書、2018. ( amazonで見る )
ローマ帝国の貨幣史、ではなくて、あくまでタイトル通りに貨幣-図像を通じて見るローマ史です。帝国史というよりは共和政ローマからしっかり見ているので、より正確には「貨幣が語るローマ史」でしょう。ともすればニッチな内容で一部の読者層向けという感もありそうなテーマながら、一般向けにもたいへん読みやすく興味をそそられる良い構成になっていつつ、さらにはこれをきっかけにもっと深く研究に食指を伸ばしたくなるようなものに仕上がっていて、これは素晴らしいと唸らされます。
貨幣に描かれるものが、自然に対する畏敬から、先祖、そして現存する人物へと変遷してゆき、それはまさしく神格化というものに一致しうると言えるのではないかと。そして特定の人物が貨幣に具体的人物を描けと指示することについて、極言すると、貨幣に託すのは「承認欲求」ということになるでしょうか。承認してもらいたいものは、自己自身の地位の保全であったり、次の継承者に向けての地位の保全であったり、単なる自己承認の精神的充足であったり。最後のケースは割と稀で、もっと切実な理由が多そうです。
本書の射程は、ローマ史に留まらず、キリスト教がいかにしてローマ的精神(もっと広く言えば地中海世界的精神風土)の上に寄って成り立っていったのか、そしてそれを忘れ去らせようとしていったのか、ということにまで及びます。史料から歴史を語るとはこういうことだ、という良い例を示す名著です。