今週の読書紹介(2018/10/15~2018/10/21)『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』『トリフィド時代』『実務でつかむ! ティール組織』『訪問看護事業 成功の条件』
かなり秋めいてきた今週(2018/10/15~2018/10/21)からは次の 4 冊を紹介。
川添愛『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』東京書籍、2018. ( amazonで見る )
「数字」という概念を認識せずにエジプト数字のみしか知らない存在に対して、「アラビア数字」の誕生から、二進法、数字による情報表現、電気信号への変換、プログラミングという概念……というように、根本のところから歴史的流れを踏まえてコンピュータが作られるまでが語られていく一冊。構成組みが非常に秀逸で、東京書籍から出されているだけあって小学校の教科書に採用してくれないかなと思わされるようなものになっています。イラストによる分かりやすさ・親しみやすさもまた優れもの。
基本原理を知らなくったって、使えればいいじゃん、という考えもあるにはあります。今後、AI の伸展によってますますそういう風潮にもなるでしょう。本書の最後の方にも、そういった流れに対する警鐘が鳴らされていましたので、以下に引用します。
「僕らは、先人たちの研究の積み重ねによって何かができるようになると、「できること」のほうが当たり前になってしまって、それを生み出した「研究の積み重ね」のことを忘れてしまいがちだ。それはそれで仕方がないことかもしれないけれど、それが「研究なんて、全然大切じゃない」とか、「もう勉強は要らない」っていう考え方につながってしまうのは、やっぱりおかしなことだよね。
それに、「今は当たり前のこと」が、本当は「全然当たり前ではない」と気づくことに、毎日を楽しく豊かに生きるヒントがあるような気もするしね。」 ( 本書 p.169 )
ジョン・ウィンダム『トリフィド時代 食人植物の恐怖』創元SF文庫、2018. ( amazonで見る )
小説は読んでいてもあまりこの読書紹介で取り上げることをしてきていなかったのですが、これは紹介しておこうと思って筆を執りました。ここ数年、古典の新訳が結構出ていて嬉しく、本作もそのうちの一冊で、パニックモノ、破滅モノの元祖名作ともいえるもの。読む人は全員こう思うことでしょう、何て淡々と進むのか、と。これぞ英国SF。アメリカとは違いますね。裏表紙に書かれている紹介文の煽り感は、あくまで売るためのもので、中の文章の温度感とは随分違います。そそられる良い紹介文であることには間違いありませんが。
「その夜、地球が緑色の大流星群のなかを通過し、だれもが世紀の景観を見上げた。ところが翌朝、流星を見た者は全員が視力を失ってしまう。……(中略)……折も折、植物油採取のために栽培されていたトリフィドという三本足の動く植物が野放しとなり、人間を襲いはじめた! ……(後略)」 ( 本書 裏表紙 )
小説の紹介/感想というのは難しく、とかく、ネタバレになるラインというものを気にしなくてはなりません。古典といえど、最後の最後のオチを匂わすようなことは書けない。ネタバレしますと宣言する書評では別ですが、ここではネタバレしません。
では何を紹介するのか? それはやはり、本作の読後にこの文章を読んだとき、初めて意味が分かるというようなことを、でしょう。すなわち、このタイトル。 THE DAY OF THE TRIFFIDS というフレーズの真意。これが、「ぬぐい消してしまう日」 ( 同 p.402 ) なのか、それともむしろその逆なのか。これについての妄想を膨らませることができるようになるためだけにでも、この本を手に取る価値がある、とご紹介いたしましょう。
吉原史郎『実務でつかむ! ティール組織』大和出版、2018. ( amazonで見る )
ティール組織、ホラクラシー経営について書かれた本なのですが、タイトルにある「実務でつかむ」というには実務感が薄く、全体的に、概念や空論がふわふわしているような印象に終始してしまいました。それこそ、ティール組織というのをひと言であらわしている「社長や上司が業務を管理するために介入をしなくても、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことができるような独自の仕組みや工夫に溢れている組織」 ( 本書 p.14 ) という冒頭の説明によって「つかむ」だけで十分と思えてきてしまいます。
そもそも最初の章でティール組織を説明するにあたって、いわゆる「意識高い系」的な人口に膾炙していないカタカナ語の氾濫が目立ってよく分からないことになっています。提唱者のフレデリック・ラルーが話している語の翻訳を宛てているだけなのかもしれませんが、それでも伝わる日本語に置き換えないと、読者が大切にされていないということになってしまうでしょう。
また、ティール組織は良い、ホラクラシー経営は良い、という絶賛の意思はヒシヒシと伝わってくるのですが、例えば経営破綻になって借金背負って倒産したら誰が責任取るの? とかそのあたりの切実ギリギリのところについて何も語られていないというのが、やや胡散臭さの一因となってしまっています。
普段、オススメの本以外は紹介しないのですが、このティール組織という概念自体は重要なものだと思いますので取り上げています。一度、ティール組織で自身が働いてみないと腑に落ちてこないのかな……
浜中俊哉『訪問看護事業 成功の条件』経営者新書、2018. ( amazonで見る )
訪問看護事業はこの先ますます伸び続けていくだろうということで多くの新会社ができていはするものの、今のところ、看護師マネジメントが甘いせいで潰れていく会社が多いようです。それというのも、病院勤務上がりの人が経営者になるケースが多く、その場合は得てして一般的な株式会社の「サービス精神」や「コスト感覚」が薄いのが弱味になっているとのこと。著者がたった数年で売上規模を 30 倍にも伸ばしたのは、その基本ともいえるところを、著者自身が一ユーザ時代に辛酸を舐めた経験をもとに、徹底的に突き詰めた結果として必然だったのかもしれません。
訪問看護事業が今後必要になるということの背景知識を得られるのはもちろんのことながら、未経験の領域において新しく会社を立ち上げて成功させていくことの裏に、どんな考えや苦労があるのかということも改めて学べる良著でした。また、合間合間に挟まれる、利用者との交流エピソード(最終的には必ずお亡くなりになる……)は、グッと来るとともに、心胆の強くない自分はこの領野には踏み込みづらいなと思わされました。
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